人は悲しいくらい忘れてゆく生き物

空中庭園 (文春文庫)

空中庭園 (文春文庫)

かっちくんからの借り物。ページを繰り始め、「借りてすぐ読んでいた」ことを思い出す。まだ読んでいないと思った。認知症の傾向か。ひとつの家庭を、別々の角度から見てみる。すると、一見ごく普通の平和な家庭が、「普通」「平和」とは程遠いものであることが判明する。この家庭の「何事も包み隠さず、出来るだけ全てのことを分かち合おう」というモットーも、物語を読み進めるなかで「口先だけの耳障りのいい口約束」であることが分かる。滑稽だ。激しく滑稽だ。しかし、その「約束」への儚い願いを想うと、やけに切ない。家族それぞれの持つ「別の顔」。何も無理に見ることはない。ただ「有る」ということをぼんやり思うだけだ。


今日は、長寿姉妹「きんさんぎんさん」の「きんさん」の命日だそうだ。そのことを耳にして急速に蘇ってきた思い。7年前のきんさんの死。そしてその4日後、後を追うようにして亡くなった最愛の祖母。どことなく似ていたきんさんと祖母。きんさんの死を知り、嫌な予感がした。その予感どおり、あっという間に亡くなってしまった祖母。この「2つの命の終わり」を、この先ずっと忘れないであろう。そう強く思っていたのに、「1月27日は祖母の命日」ということだけ残して、綺麗さっぱり忘れてしまっていた。


忘れたくないことを、忘れてしまう悲しさ。忘れてしまいたいことを、忘れられない苦しさ。フラッシュバック。1年のブランクを経て、突然やってきたフラッシュバック。私にとってこの季節は、これから先もフラッシュバックと共にあるのだろうか。